若槻さんとのコラボ祭り!1回目はこちら
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翌日、大騒ぎの夜を越えた朝日の眩しさに耐えながら起き出した面々は、今回も食事を取ってから移動の間に集まった。前回同様――以前よりもあちらもこちらも人数が増えた分、より多く、移動の間には人が入ってくる。
「いやはや、みんな楽しめたようでよかったよ」
「全くだな犀利の君よ。君たちを招待するよう進言し続けた甲斐があったぞ」
次々に訪れては交流を持った面々に挨拶を交わしていく住民たち。そのやり取りを、発起人のふたりは満足げに眺めていた。正確に言えばフェランドの独断なのだが、パトリックが応じたからこそ、今回の訪問は実現出来たのである。楽しげな面々にパトリックとフェランドの顔には満足げな笑みが浮かんだ。
この時エリザベスはパトリックの存在を忘れていたのだが、その忘れた理由のおかげで人波が出来ており、彼の目にその姿が映ることはなかった。
「艦長! 放してください! 連れて帰れませんってば」
「やってみて駄目だったら返せばいいだろう!」
「姐さん俺じゃ不満なんッスか!?」
副官時代の気分に完全に戻って呆れと焦りをにじませているルイス、頑として譲る気のないエリザベス、涙目のトマス。3人が囲んでいるのはすっかり固まっているアシスタンツのうちの一体だ。彼らの従順な優秀さを大層気に入ったエリザベスが、一体でもいいから持ち帰る、と駄々をこねたのがこの騒動の始まりである。
ぎゃあぎゃあと騒がしいやり取りが続く中、そそそと悠羅がエリザベスに近付いた。その直後、エリザベスが抱えていたはずのアシスタンツが姿を消す。
「あっ! ユウラ! お前時を止めたな? 時渡りの力を使うのは卑怯だぞ」
突然の出来事にも関わらず、エリザベスは状況を即座に飲み込み隣に立つ悠羅を非難した。そんな彼女に悠羅はぺろりと舌を出し後ろ頭に手を当てながら笑う。
「だーって放してくれなさそうだったしさ~。アシスタンツの子達はここで存在するために生まれた子達だから、ナディカさんたちの世界に行ってもすぐに消えちゃうよ」
それじゃ意味ないでしょ? と問われれば、「その通りだ」としか答えようがない。
「……仕方ない、ノーランドで我慢するか」
「我慢って言い方」
「精一杯頑張ります!!」
ようやくの納得を示したものの言葉のチョイスを盛大に誤っている気がするエリザベスをルイスがツッコむ。だが、当の本人は天の意を得たりと言わんばかりに晴れやかな笑顔をして諸手を上げた。
「よかったねー、トマス君」
「はいッス!」
くすくすと笑って声をかけてきたのは状況を見守っていたロナルドだ。その周囲には他の子供たちもいる。
「……あ、もういいですか? それじゃあトマスさん、次お会いする日までお元気で」
「また遊びに来いよ」
「一緒、遊ぶ、楽しか、た。また、来て」
「今度は僕ももっと高くまで行けるようになってますから、また競争しましょうね」
「次は
「ボニトねー、またトマス君とあそびたい! また来てね!」
「うん、私も遊びたい。また来てねトマス君」
「其はとても良い御仁であった。出会えたことを幸運に思う。またお会い出来るのを楽しみにしているぞ、トマス殿」
騒ぎが収束するや否や口々に別れと再会を願う言葉を紡いでいく子供たち。トマスはそのひとりひとりとしっかりと握手した。
年齢が判明した際、彼らは一度「大人相手」という壁を作りかけてしまったのだが、トマスが頼み込みそれをやめてもらった。何とか受け入れた、といった様子の子供たちだったが、トマスが一緒になって全力で遊ぶのを見て考え方が変わったらしい。早々にそれまで同様――あるいはそれ以上の親しさでもって接してくれるようになった。
そうなって良かった、と心からそう思いながらトマスも笑顔で別れと再会を願う言葉を返していく。その様を、子供たちの保護者たちは笑顔で見守っていた。
その隣では、同じく騒ぎが収束するのを待っていた咲也たちがルイスに話しかけている。更に向こうではロドリグがベティーナをはじめとした料理人たちと語り合っており、レオンは今回手合わせをした者たちと熱い握手を交わしたり拳をぶつけあったりしていた。
誰もが笑顔を交わす中、一角だけ静かな火花が散っている。ハーティとアランだ。それぞれの背後には人がおり、ハーティの背後にはマリアンヌたち客人女性陣と陽菜乃たちをはじめとした今回一緒に行動した女性陣が、アランの後ろにはセザリスがいる。
「人数差見えないの? あたしの方が一緒にいた人多いんだからあたしの方が凄い」
「おれが仲良くなったの陸軍少将っていうすっごい人だし。仲良くなったし仕事も褒めてもらったし、おれの方が凄い」
「あたしだって褒めてもらったから」
「ただのお世辞だろ。単純」
「それはあんたでしょ。大人がおべっか使うのは当たり前じゃん」
「マリアンヌさんたちだって大人だろ」
ばちばちとお互いに「自分が仲良くなった人の方が凄い」「そんな人と仲良くなれた自分の方がお前より凄い」の姿勢を崩さない。お互いの背後に待っている面々は、子供じみた喧嘩をするミルトン家案内人姉弟を苦笑して見守っていた。
――その直後、何かに気付いた女性陣……の、住民たちがさっと青ざめマリアンヌたちを少し下がらせる。その様子を見て一体何がと彼女たちの視線を追ったセザリスは、とある人物が怒気を背負って近付いて来ることに気がついた。そして住民たちの顔色が変わった理由を把握すると次の行動に迷う。彼の目的は完全に今喧嘩している姉弟だ。なら、下がっていれば問題はないはず。だが放っておくのも気が進まない。その厳しさがどんなものか、昨晩別の者たちが食らっているところを見てすでに知っているから。
意を決して声をかけようとするが、予想外にその歩みは早かった。近付いてきていた青年――ハーティたちのすぐ上の兄ことチャーリーは容赦せず弟妹の頭に拳骨を落とす。とんでもない音が聞こえてセザリスもマリアンヌたちも住民たちも目を逸らした。
「客人の前で喚くな」
厳しく言い放つと、チャーリーはくるりと体の向きを変える。最初にその鋭く碧い双眸と目が合ったのはセザリスだ。思わずびくりとなるが、チャーリーは気にせずに頭を下げた。
「騒がしくしてしまい申し訳ございません。……この度は弟がお世話になりました。またどうぞご訪問ください」
顔を上げたチャーリーの顔に「兄」が滲む。セザリスは少し表情を緩め、「是非」と返した。それに軽く頷いてからくるりと身を翻し、今度は女性陣に頭を下げる。同じことを繰り返している背中を見ていると、頭を抱えて蹲っていたアランがふらりと立ち上がった。その手は殴られた場所を庇うように当てられている。
「大丈夫か?」
「あは、は、大丈夫……です」
どう見ても大丈夫ではないが、大丈夫というなら信じるしかあるまい。しつこく訊いたらアランにもチャーリーにも悪い。
「――楽しかった。また機会があれば是非話をしてくれ」
手を差し出せば、アランは取り繕っていた案内人の顔から少年の顔になりその手を握り返した。今度は、セザリスが「是非」と言われる番となる。
数分後、謝の声がけを受けて一同は元の世界に戻るための機械を通った。不思議な感覚が訪れたかと思うが早いか、その身はエリオット邸に舞い戻る。来た時と同じ位置で、机を囲んで立っていることに気付くと、自然と詰めていた息が吐き出された。
「夢……じゃ、ないッスよね?」
伺うようにトマスが呟けば、面々からは続々と否定の言葉が届く。そうッスよね、とトマスが納得したその時、ひらりとそれぞれの手に白い封筒が舞い降りた。何もないはずの天井から。思わず上を向いたルイスやエイミーだが、彼らももちろん気付いている。これが、誰からの手紙か。
「何々、……『陣の魔力が溜まれば使えますのでいつでもいらしてください 風吹く宮一同』――だ、そうだ。これで条件が揃えばいつでも行けるね諸君」
躊躇なく手紙の封を開けたパトリックが読み上げれば、一同は自分の手元の手紙を開き始めた。パトリックが読み上げた通りの文言と、その下には魔法陣が描かれている。移動陣だ。使い方までしっかり書いてあるその丁寧さと歓迎ように、自然と笑顔が部屋に満ちていく。
次は一体いつになるだろう。あのやまない風に包まれた宮へ訪れるのは。そんな期待は静かに、そして確かに、一同の胸に満ちていくのであった。
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